インサイト
セクター・スポットライト:APACのヘルスケアM&Aを拡大するための処方箋
2025年09月15日 (最終更新 2025年09月29日) | ブログ
セクター・スポットライト:APACのヘルスケアM&Aを拡大するための処方箋
APACの 製薬・医療・バイオテック(PMB)セクターにとって、2025年前半は大きな転換点となりました。2024年は比較的閑散で中堅企業の小粒な取引が中心でしたが、ディール金額の面で市場は大幅に回復しつつあります。2025年前半のAPACのディール件数は前年同期比3%減の422件にとどまったものの、ディール金額は同45%増の300億米ドルに急増しました。
この急増の背景には、PMBセクターのディール・メーキングで起きている世界的変化があります。 APAC、 EMEA(欧州・中東・アフリカ)、 南北アメリカでディールメーカーは量より質を優先しており、平均ディール金額の増加、より多くの国際的パートナーシップ、優れたディール執行を追求しています。
APACでのM&Aの勢い:高額化、集中化
APACのPMBセクターにおける2025年1-3月期のM&Aは196件と、ディール件数で第4位でした。2025年半ばには中堅企業市場での多くの小粒なディールから少数の大型取引へと変化が見られ、ディール金額が明らかに回復しました。
- 金額面で米国勢がリード:米国の買い手企業が投入資本額を倍増し、APACのPMBセクターに90億米ドルを投資しました。
- 件数面では中国が依然としてトップ:138件の取引が成立した中国は、地政学的および規制上の問題があるものの引き続きM&A活動の中心です。
- 日本が安定的なM&A拠点として浮上:ディール総額が19億米ドル未満にとどまるにせよ、この地域で2番目に多い104件の取引が成立した日本は、イノベーションに焦点を当てたM&Aの重要な拠点であることを証明しつつあります。
日本で2025年1-3月期に目立ったM&Aはベイン・キャピタルによる田辺三菱製薬の38億米ドルの買収で、同国では久しぶりの大型PMBディールとなりました。もっとも、4~6月は小規模でニッチな買収が中心でした。これは、小規模な投資金額で革新的な資産を求める戦略的バイヤーにとって日本の魅力が高まっていることを示しています。
EMEAと南北アメリカにおけるPMBセクターのM&Aの詳細
APACの回復は、より選別的かつ戦略的に資本が投下される世界的トレンドを反映しています:
EMEA:ディール件数減少、1件当たり投資額増加
EMEAでは、PMBセクターのディール件数は前年同期比13.6%減少しましたが、ディール総額は80%増の500億ユーロに急増しました。この急増のきっかけとなったのは、バイオ生産の強化を2029年まで支援する欧州委員会の100億ユーロに上るライフサイエンス戦略です。シンガポールの政府系ファンドが画期的なディールに参入するなど、地域外の資本が流入しています。製薬会社はパイプラインの最適化を目指しており、成功確率の高いライセンス契約や投資ポートフォリオの再編もディールの動機となっています。
南北アメリカ:専門化と選別
南北アメリカ地域では、今年前半にディール件数が33.7%の大幅減となったにもかかわらず、ディール金額が1,220億米ドルに達し、規模の点で引き続きPMBセクターをリードしています。この変化は厳しい選別を反映しており、買い手企業は迫り来る特許の崖に対応するため、開発後期の商業化された資産を優先しています。特殊治療薬やバイオ医薬品、精密医療の資産はプレミアム付きで売買されているため、南北アメリカはイノベーションに基づいた高額ディールの指標となっています。
APACにおける変化の要因
APACでM&Aの対象が絞られディール金額が上昇している理由としていくつかの要因が考えられます。
- サプライチェーンの多様化:世界の製薬会社やバイオテック企業は、米国のバイオセキュア法や地政学的圧力への対応として中国での製造の依存度を減らし、インド、東南アジア、日本で設備投資を行っています。
- 規制の後押し:承認プロセスの簡素化、より優れた価格インセンティブ、イノベーション促進政策といった日本・中国の改革はこの地域の競争力を高めています。
- 国際的な資本の流れ:米中の投資家が優位を占めますが、東南アジアのソブリンや機関投資家の資本がこの地域のディールに対する影響力を強めつつあります。
- 量より質へのシフト:投資家は、EMEAや南北アメリカで見られたのと同様、より少ない、より確信度の高い案件に、より大きな資金を投入したいと考えています。
APACにおける2025年後半のM&A見通し
APACは今後も勢いを維持しそうです:
- 米国の買い手企業は、高成長市場や臨床段階の資産への投資を強化すると予想されます。
- 規制の明確化でより大規模な取引が可能になっている日本の役割が拡大すると考えられます。
- 東南アジアは受託製造・バイオ製造のハブとして台頭し続け、国際資本を吸引する見通しです。
APACの PMB市場は、ディール金額が小さかった2024年から巨額化した2025年にかけて急速に成熟しつつあります。平均ディール金額の増加、米国買い手企業がディール金額を牽引、日本の着実な台頭により、この地域は世界のPMBエコシステムにおける役割を確固たるものにしつつあります。