Analysis by Mergermarket, an Acuris company owned by ION Group
日本のディールメーカーは、新型コロナウイルス感染拡大による当初の影響を経て、事業売却の増加や低コストでの資金調達、アクティビズムなどの要因に支えられた現在のモメンタムを背景に、M&A が力強く回復しているとみている。5 月 27 日にデータサイトとマージャーマーケットが共催したウェビナーで講演した業界専門家らが語った。
ウェビナーの冒頭で、PwC シンガポールのパートナー、平林康洋氏はマージャーマーケットのデータを引用し、2021 年第 1 四半期の日本企業を対象としたM&A 案件(国内案件およびインバウンド案件)は 156 億 US ドル・125 件と、前年の 130 億 1300 万 US ドル・136 件から金額ベースで増加したと述べた。
国内で最も活発だったセクターは、工業・化学(I&C)の 43 億 4800 万US ドル・28 件、およびテクノロジーの 29 億 500 万 US ドル・16 件だった。一方、2021 年第 1 四半期のアウトバウンド M&A 案件は 194 億 US ドル・37 件と、前年の 92 億 7600 万 US ドル・74 件から金額ベースで大幅増加した。
専門家らは、これまで案件交渉において障害となっていた新型コロナの影響による評価額を巡る売り手と買い手との間のミスマッチがほぼ解消されたとの見方で一致した。
三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券のマネージングディレクター、竜口敦氏は、2020 年第3 四半期以降案件数は急速に回復しており、今後も引き続き増加するとの見方を示した。企業がコロナ期間中の決算結果を発表したことで見通しが良くなり、企業はより思い切った行動を取れるようになるだろうと同氏は付け加えた。
オリックスの執行役、渡辺展希氏は、評価額の上昇で事業の売却には適した時期となっており、多くのプライベート・エクイティ(PE)会社や事業主が現在イグジットを模索しているようだと述べた。
一方、買収入札では、(リミテッド・パートナーとしての)長期機関投資家からの資金流入やドライパウダーの増加、好条件のLBO ローンを背景に PE 会社が強気の提案を行う傾向にあると渡辺氏は指摘する。そのため、入札においてオリックスがこうしたプレーヤーに競り勝つのは難しい傾向にあるという。
専門家らはまた、敵対的買収が増加するとの考えで一致した。アンダーソン・毛利・友常法律事務所のパートナー、佐橋雄介氏によると、今年これまでに実施された敵対的公開買付け(TOB)は 7 件と、昨年の 5 件を既に上回っている。最近の成功例を機に、より多くの日本企業が敵対的 TOB の実施を検討する可能性があるという。
従って、アクティビストにとって好ましい状況になっていると佐橋氏は述べた。企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の改訂、企業内容等の開示に関する内閣府令の改正、議決権行使助言会社による議決権行使助言基準の改定、東京証券取引所による市場再編計画などを受けて、企業間の株式持ち合い解消が進むと予想され、その結果企業は安定株主を失うことになると同氏は指摘した。
これにより、アクティビストが自らの株主提案について他の株主から承認を得る可能性が高まるという。
専門家らは、日本企業による非中核事業の売却ペースが引き続き M&A を活発化させるとみている。三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券の竜口氏は、(グローバルな)PE 会社は日本市場に注力しており、日本企業による非中核事業の売却を促すアクセラレーターになる見込みだと指摘した。
企業は、多角化した事業が株主価値の最大化に寄与しているのか、世界市場で競争力を維持するために投資を継続できるのかについて、株主の関与や市場からの圧力によって試されていると竜口氏は付け加えた。
オリックスの渡辺氏はこの見方に同意しながらも、PE 会社が強気の提案を行なっているため(オリックスは)非中核事業の売却案件を積極的に追求してはいないと述べた。
代わりにオリックスは、国内では業界を問わず事業承継問題を抱えるオーナー(創業者) 系企業を模索している。
国外では、米国、欧州、中国の再生可能エネルギー会社やオルタナティブ資産運用会社に注力している。これらの国・地域ではこうした機会が豊富にあり、市場規模も大きいからだと渡辺氏は説明した。
再生可能エネルギーの対象会社では、オリックスはこれまでに太陽光発電事業や不動産証券化、インフラなどに関与しており、資産運用会社を取得することで運用資産残高(AUM)を伸ばしたいと考えている。
同社はこれらの分野に対応する M&A チームを抱えており、ソーシング、(投資)実行、投資後のバリューアップなど案件を完結することができると渡辺氏は述べた。
専門家らは一方で、クロスボーダーM&A が再び活発化するにはまだしばらく時間がかかるとの見方を示した。データサイトの日本責任者、清水洋一郎氏は、2021 年第 1 四半期のVDR(バーチャルデータルーム)利用の 9 割が国内案件向けで、クロスボーダー案件向けの VDR 利用はわずか 1 割にとどまったと述べた。
PwC の平林氏は、ワクチン接種は始まったばかりで移動制限の解除にはもう少し時間がかかるだろうとした。現況下でクロスボーダー案件の実行方法や利用すべきツールを検討するのは日本のディールメーカーにとって大きな課題だという。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所の佐橋氏は、ディールメーカーが海外に渡航して(対象企業の)経営陣に直接対面したケースはいくつかあるようだが、多くのケースでは渡航制限が依然として案件を進める上での大きな障害となっていると指摘した。一部のディールメーカーは現場訪問の代替手段としてカメラを用いたバーチャルツアーを行ったが、こうした例はまだまれだという。
オリックスの渡辺氏もこの見方に同意を示し、全てをリモートで行うには限りがあると述べた。オリックスも以前、ビデオで施設の内見を行うバーチャルツアーを試みたが、対面でのデューデリジェンスの代わりにはならなかったという。渡辺氏によると、現地スタッフによってクローズできた案件もあったが、他の案件は現場訪問ができず保留となっている。
渡航制限の解除が、保留中の案件を再開するターニングポイントになるだろうと同氏は述べた。
データサイトの清水氏は、デューデリジェンスに要する期間が様々な面で長引く傾向にあり、ディールメーカーにとって AI(人工知能)の活用が効率的に案件を進めるためのカギとなるかもしれないと述べた。
This webinar coverage article was originally published in English by Mergermarket on June 4, 2021; it has been republished with permission.