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エキスパートスポットライト2026年10月1日

専門家の注目点:選別と実行がフィリピンのM&Aを形作る

ハイライト

  • フィリピンにおけるディールフローは投資戦略や取引規模に応じて異なるスピードで動いています。パネリストはヘルスケア、消費財、金融サービス、エネルギー、インフラ、観光業界におけるM&Aの機会を特定しました。
  • 企業は力強い成長があるだけでディールの準備が整ったとはいえません。投資家はガバナンス、経営の質、規模の拡張性、創業者との協調関係、エグジット(出口)に向けた道筋についても評価します。
  • AIは案件発掘、分析、ドキュメント・レビュー、デューデリジェンスを支援しつつあります。もっとも、投資の意思決定は依然として人的判断、信頼関係、戦略的思考に依存しています。

フィリピンのM&A活動は様々なスピードで進んでいます。パイプライン(見込み案件)が強化されたとみる投資家がいる一方、大規模取引で活動が鈍化していると報告した投資家もいます。議論全体を通して、M&A案件がパイプラインに入ってきているとともに、選別がより厳しくなっていることが示されました。企業がM&A取引を行い、規模を拡大し、長期的価値を創出する準備ができているかどうかを評価するため、投資家は成長以外にも目を向けつつあります。

この緊張関係を背景に、DatasiteとIsla Lipana&Co./PwCフィリピンの共催で、Dealmakers Dialogues Philippines 2026が開催され、今年で2年目を迎えました。PwCフィリピンのRick Danao会長とDatasite APACのDesmond Chua最高収益責任者(CRO)による開会挨拶の後、DatasiteのRayna Tongが、PwCフィリピンのTrissy Rogacionディールズ&コーポレートファイナンス・パートナー、Sweef CapitalのRowena Reyesディレクター、NavegarのJuan Carlos ‘Ayo’ Camaraオリジネーション責任者、Creador Private EquityのChester Estebanディレクターを迎えてパネル・ディスカッションの司会を務めました。

全体として、パネル参加者は、投資戦略や取引規模によってなぜディールフローが異なっているのか、どうなれば企業は投資のための準備が整ったといえるのか、AIが人間の判断に取って代わることなくM&Aの実行を加速できる領域はどこか、について議論しました。また、DatasiteのAndrew Chuaセールスエンジニアが簡単な技術デモンストレーションを行いました。

ディールフローは異なるスピードで拡大

フィリピンのディールフローに対する見方は投資戦略や取引規模によって異なります。フィリピンに特化したあるプライベート・エクイティ投資家は、2026年8月までに2025年全体よりも約30%多い案件を検討しました。中でも、ヘルスケア、消費財、ホスピタリティ・観光がこれら見込み案件の大部分を占めました。

より大規模な取引を狙う投資家はこれとは異なり、2026年にM&A活動が減速したと報告しました。ただし、インフラ、エネルギー、ヘルスケアでは引き続きM&Aの機会が生じました。マクロ・イベントを警戒して市場に復帰するのを見送った企業もありました。

こういった対照的な状況は取り巻く環境の重要性を示しています。買収金額、リターン見通し、投資戦略によって同じ市場でも異なる見方が生じる可能性があります。それでも、いくつかの分野は議論の中で繰り返し取り上げられました。

ヘルスケアの投資対象としては病院、医薬品メーカー、医療機器メーカーなどが挙げられました。消費財関連のM&Aでは食品・飲料会社、小売業、パーソナルケア企業が取り上げられました。また、ある投資家は自らのパイプラインの中にある観光・ホスピタリティ業界の案件を報告しました。その他の投資戦略では、教育や食料システム、気候耐性、再生可能エネルギー関連の企業、および従業員、リーダー、顧客、起業家として女性を支援する企業が評価の対象となりました。セクターの範囲は幅広いかもしれません。しかし、魅力的な市場ポジションは投資判断のほんの一部にすぎません。案件がパイプラインに入ると、当該企業を取り巻く市場から企業自体に関心が移行します。

成長見通しに加えて取引の準備が整っている必要がある

フィリピンの企業の中には、将来の投資や売却を念頭に置かずに設立された企業もあります。これらの企業の成長見通しは魅力的かもしれませんが、その法的構造とガバナンス手法が取引を支援する態勢になっていない可能性があります。これらの問題は、未解決のまま放置されると、デューディリジェンスを遅らせ、重大な懸念の原因となり、投資家が認めようとする価値を低下させる可能性があります。

そのため、投資家の検討範囲は企業の財務実績だけにとどまりません。投資家は、防御可能な競争上の地位、有能な経営陣、十分な後継人材、事業規模を拡張する能力を企業が有しているかどうかを評価します。創業者主導の企業の場合、準備が整っているということは、中長期的に投資家と協力する用意があるということをも意味します。

両者の関係では協調性が求められます。創業者、経営陣、投資家は会社の方向性とそのために必要な意思決定について共通の見解を持っている必要があります。投資家はまた、1人の創業者、経営者以外にも目を向け、より広範な経営陣が次の成長段階をサポートできるかどうかを判断します。

インパクトを重視する観点からは、評価対象はサステナビリティ(持続可能性)やインクルージョン(包摂性)にまで及びます。インパクト・デューディリジェンスでは、ジェンダー平等、労働慣行、気候リスク、環境・社会に及ぼす影響、国連の「持続可能な開発目標」との整合性が調査対象となる可能性があります。その後、調査結果はクロージング文書に組み込まれ、投資期間を通じてモニタリングされる可能性があります。これらの要因は、企業がデューディリジェンスに耐えて取引を完了できるかどうかに関する本パネルの評価に組み込まれています。もっとも、買い手と売り手が企業の強みを認識しているとしても、その企業の価値や、ディールを完了するために必要な条件について両者の見解が異なる場合があります。

契約構造と協調関係がディールを前進させる原動力

バリュエーションは引き続き対立の原因となっています。企業は信頼性の高い予測と成長計画を提示するかもしれませんが、外的環境の変化が激しいため、将来の業績の確実性が低下する可能性があります。今回の議論では、バリュエーションの不確実性を埋めるためにアーンアウト条項やストラクチャード・ペイメント契約の利用増加が取り上げられました。とはいえ、すべての売り手がそれらを受容する用意があるわけではありません。創業者と投資家の適合性が、パートナーシップの可能性を評価する上で別途考慮すべき事項であることに変わりありません。

プライベート・エクイティ投資家は、5~7年間、経営陣と組んで仕事をする可能性があります。その間、双方は難しい判断を共同で行わなければなりません。したがって、信頼関係、共存可能な価値観、企業の方向性を巡る見解の一致は価格とともに重要です。

経営陣の層の厚さももう一つの考慮事項です。投資家は、1人の創業者や経営者以外に有能な指導者が存在するという確信を得たいと考えています。また、投資家はエグジットに向けた信頼性の高い道筋を必要とします。投資家がリミテッド・パートナーに資本を返還する道筋を特定できない場合、成長企業であっても問題が生じるかもしれません。

今回の議論では、投資を求める前に企業が対処できるいくつかの領域が指摘されました。具体的には、ガバナンス、法的構造、十分な経営人材、バリュエーションとエグジットの見通しなどです。案件発掘、文書レビュー、デューディリジェンスなどの分野では、テクノロジーが話題になりました。

AIは仕事を迅速化するが、確信を構築するのは人である

AIはディール過程のいくつかの段階をすでにサポートしています。投資家は、案件スクリーニング、アンダーライティング支援、顧客からのフィードバックの分析、ドキュメント比較、企業へのアプローチの改善にAIを使用していると述べました。融資ポートフォリオを保有するある企業は、融資の組成と回収にもAIエージェントを使用していました。

テクノロジー・デモンストレーションはデューディリジェンスでのAIの実践的活用例を示しており、データルーム内の情報を用いて買い手の質問への回答案が作成され、関連の情報源が表示されます。これによって、反復作業が削減され、チームはより多くの情報を効率的にレビューできるようになります。

本パネルは自動化の限界についても同様に明確に示しました。AIは情報を整理し、違いを特定し、分析を支援することができます。もっとも、AIは投資の推奨について責任を負うことも、潜在的な提携関係のあらゆる側面を評価することもできません。

経営の質の評価、戦略のテスト、および創業者と投資家が同じ価値観を共有しているかどうかの判断において、経験は依然として不可欠です。ディールメーカーはまた、過去の取引の教訓を適用するため、また、自らの作業を支援してもらうため、信頼できるアドバイザーに頼っています。

したがって、技術と人的専門知識は異なるが補完的な役割を担います。AIはプロセスの一部を加速させることができます。一方、人間関係、説明責任、判断、戦略的思考が引き続き意思決定自体を形成します。

今後の展望

本パネルは、フィリピン経済のいくつかの分野における長期的な投資機会を特定しました。ヘルスケアや金融サービスの分野は近隣諸国と比較してM&Aがまだ不足していますが、消費財セクターは引き続きM&Aの一角を占めています。インパクトを重視する視点からは、財務実績と測定可能な社会的または環境的成果を共に備えた企業も検討の対象となりました。

エネルギーやインフラ分野への投資は、より広範な影響を及ぼす可能性があります。フィリピンの高い電力コストが製造業の制約要因となっており、こういったコストを削減するインフラ投資は、関連業界全体にわたって競争力を向上させ、雇用創出を支援し、収益機会を開く可能性があります。

本パネルは繰り返し、デューディリジェンスの準備や現実的なバリュエーション予想、投資家と経営陣の協調関係をディールの実行状況と関連付けました。テクノロジーはプロセスの一部を加速させるかもしれませんが、今回の議論は人間関係や説明責任、判断を投資判断の中心に置きました。

現在の選別的環境の下では、企業の準備と実行はともにどの案件が取引の完了に向かうかに影響を与えます。

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