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エキスパートスポットライト:ジャパンディールモメンタム~分析リポート

2022年02月14日 | ブログ

エキスパートスポットライト:ジャパンディールモメンタム~分析リポート

Analysis by Mergermarket, an Acuris company owned by ION Group

企業による事業売却、デジタルトランスフォーメーション(DX)、ESG(環境・社会・企業統治)のトレンドなどが続くなか、日本のディールメーカーは2022年のM&A案件パイプラインについて明るい見通しを持っている。1月27日にデータサイトとマージャーマーケットが共催したウェビナーで講演した業界専門家らが語った。

ディールロジックのデータによると、2021年の日本企業を対象としたM&A案件は1100億USドル・3210件となった。前年は1381億USドル・2891件だった。2021年に案件額で最も活発だったセクターは不動産の215億USドル、案件数で最も活発だったセクターはテクノロジーの1154件(案件額は168億USドル)。一方、2021年のアウトバウンドM&A案件は844億USドル・401件。前年は649億USドル・468件だった。

DX

KPMG FASのパートナー、谷千晶氏は、DXはここ数年業界を問わず日本企業にとって最重要テーマとなり、日本企業はこうしたスキルとテクノロジーの取得にきわめて積極的だと述べた。

SMBC日興証券のコーポレート・ファイナンス本部長、京極玲氏は、現在の経済情勢と金融市場の不透明性を踏まえて日本企業はより選択的になる可能性があるものの、DX領域およびその他の成長分野における案件数は増える見通しだと指摘した。株価低迷と事業環境の変化を受けて企業価値の評価額が概して低下するなか、健全な財務基盤を持つ大手企業も今年、引き続き大規模なクロスボーダー案件を模索する可能性があるという。

テック企業は、収益性を高めるため、既存事業に加えて付加価値のあるITソリューションを顧客に提供すべく、買収および資本提携を模索していると京極氏は付け加えた。

富士通(TYO:6702)の海外買収案件担当ディレクター、松本健氏は、移動制限による影響を受けないよう、同社が海外拠点におけるクロスボーダー案件担当者の数を増やしたと述べた。パンデミック下で、案件をリモートで扱うことは富士通にとって既に当たり前となっているという。

富士通は、ITサービス関連企業の買収を模索しており、DXの観点から対象企業がどの程度富士通に貢献できるかを見極めることが同社にとって非常に重要だという。DX関連の買収では人材の維持と採用に関する再現可能性が大きな要因となると松本氏は付け加えた。

データサイトの日本責任者、清水洋一郎氏は、パンデミックがM&Aプロセスのデジタル化を後押ししたと指摘した。ディールメーカーによるリモートでのデューデリジェンス実施を支援するような技術に対してさらにニーズがあるという。情報漏洩のリスクを伴う電子メールやスプレッドシートの代わりに、コミュニケーションツールとしてバーチャルデータルーム(VDR)を利用するディールメーカーが最近増えていると同氏は述べ、ディールメーカーはクロスボーダー案件のみならず国内案件でもVDRを利用していると付け加えた。

DLAパイパー東京パートナーシップ外国法共同事業法律事務所のパートナー兼コーポレートグループ代表の石田雅彦氏は、規制当局によるDX関連案件への注目が高まっていると述べた。多くの案件に見られる通り、大型M&A案件の大半は個人情報およびテクノロジー関連業界で起きているという。

マージャーマーケットのデータによると、この領域での直近のディールとしてはOracle(NYSE:ORCL)による電子医療データプロバイダーCerner(本社:米国ミズーリ州/NASDAQ: CERN)の283億USドルでの買収が含まれる。

対米外国投資委員会(CFIUS)は重要なテクノロジーや個人情報が絡む案件を厳しく精査しており、ドイツやオーストラリアの規制当局も同様の方向に向かっているようだと石田氏は述べた。

反トラストの観点から、ドイツ、韓国、日本など多くの管轄区域の規制当局は、買収の対象となるテクノロジーの詳細に対する精査を強化している。こうしたテクノロジーの譲渡が市場に及ぼす影響を検討しており、市場シェアのみに基づいてディールの判断を下すようなことはもはやしていないという。

ESG

一方で、ESGが急速にM&A加速の主要因になりつつあると専門家らは指摘した。みずほ証券のグローバルアドバイザリーヘッド、木戸明宏氏は、天然資源価格上昇によるコスト増やカーボンニュートラル達成に向けた追加コストの問題を抱える国内コモディティメーカーがさらなる事業売却を検討する可能性があると指摘した。こうした企業にとってこれらのコストを販売価格に転嫁するのは難しいと同氏は付け加えた。

天然資源資産の保有者は、異なる戦略を選択する可能性もある。株価に対する下げ圧力を取り除くためにこうした資産の売却を選ぶ向きもあれば、天然資源価格の急騰を背景に依然利益を生むこうした事業を当面は維持したいと考える向きもあるだろうと木戸氏は述べた。

富士通の松本氏は、交渉の初期段階で同社が対象企業とESGに関する見解を相互に交わすと述べた。これにより、経営陣がより親密となり、時には売り手が富士通を望ましい買い手候補とみなすこともあるという。こうした協議を行うことは、初期段階で富士通のビジョンに適さない対象企業を特定することにも役立つと同氏は述べた。

This webinar coverage article was originally published by Mergermarket on February 4, 2022; it has been republished with permission.

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