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エキスパート・スポットライト:AI時代におけるヘルスケアのM&A
2024年11月25日 | ブログ
エキスパート・スポットライト:AI時代におけるヘルスケアのM&A
ヘルスケア分野はM&Aの重要なプレーヤーとして台頭してきており、今年に入って今まで、EMEA地域では3番目に大きな案件が成立しました。しかし2021年のピーク以降は大きな試練を迎えています。こうした困難にもかかわらず、変革や適応を目指すヘルスケア企業にとってM&Aはいまも強力な手段であり続けています。専門家たちはこのほど、投資ダイナミクスの変化からテクノロジーおよびAIが果たす役割の拡大まで、ヘルスケアのM&Aに影響を与える主な要因について論じました。
分野の課題と動向
ヘルスケアにおけるM&Aの状況は、特に2021年以降、案件数、取引金額ともに減少している点からも明らかなように著しく変化してきました。2024年上半期、EMEA地域におけ案件数は前年同期比23%減、取引完了数は530件、取引総額は同11%減の366億ドルでした(「Deal Drivers: EMEA HY 2024」)。
なぜこのように鈍化しているのでしょうか?それにはいくつかの要因があるようです。現在、特にプライベート・エクイティの投資家たちは積極的な展開よりも安定した目に見える成長に注目しており、リスク管理とダウンサイド・プロテクションを最も重要視しています。金利の上昇によって従来のバイ・アンド・ウィン戦略の実現はより難しくなり、取引の引き受けにも影響がおよんでいます。2021年のブーム中に取得された優良資産の多くは現在のスポンサーの元に留まったままで、買収の機会は限られています。また投資家たちの間では、力強い成長が見込まれる高価値の取引や、割安な価格でのオポチュニスティックな案件を狙う傾向が強まっており、中堅クラスの取引は敬遠されています。
このような状況にもかかわらず、ヘルスケアは有望なM&A市場であり続けています。プライベート・エクイティ企業は、多くの資産がイグジットサイクルに差し掛かる中、かなりの待機資金を準備し市場に再参入する態勢を整えているようです。また、バリュエーションが合理化されたとはいえ、優良資産は依然としてプレミアム価格を維持しており、成長主導型取引の機会を生み出しています。
さらに案件に対しては、今や急成長の追求よりもコアプラットフォームの強化、能力の向上、地理的範囲の拡大の方に注目されているようです。積極的な展開から戦略的統合への移行が進行しており、非コア・ポートフォリオの売却が潜在的な機会を生み出すなど、現在のM&A戦略が形成されつつあります。
テクノロジーとAIの進化する役割
こうした機会を掴むためにテクノロジーはますます欠かせないものとなっています。そして現在、M&Aにおけるテクノロジーについての対話は、特にデューデリジェンスと案件実行におけるAIの役割についての議論を抜きにしては成り立ちません。
この1年半から2年の間にM&AにおけるAIの導入は着実に増加してきており、プロセスの合理化と業務効率向上に向けたツールとして提供されています。実際、AIによって影響を受けるディールメーキング・プロセスの中でも、デューデリジェンスはすでにAIによって変貌を遂げつつある重要な分野です。要するにAIは戦略的イネーブラーとして、デューデリジェンスに関するインサイトをもたらすほか、効率化にも役立っています。2023年、Datasiteが世界のディールメーカー500人を対象に実施した 調査では、AIによって案件のスピードが50%アップするとの予想が大半でした。しかしこのような認識があるにもかかわらず、自社でのAI導入率は低い、または実験的な使用に留まっていると回答したディールメーカーは 60%以上にのぼります。とはいえAIは非常に多くの注目を集めています。 66%が、新しいAIツールの使用を検討することは来年の業務上重点分野であると回答しました。
また、EMEA地域および世界全体でヘルスケア・プロジェクトの平均期間は前年同期比で減少しているものの、プロジェクトのデータ量は増加していることがDatasiteの調査で明らかとなりました。つまり、プロジェクトはより大規模かつ複雑化し、ユーザー数、デリジェンスの種類が増えていることから、デューデリジェンスにはより多くのデータが必要であるという傾向がディールメーキング全体にある中、ヘルスケアにおける取引案件はより多くのコンテンツを必要としているということです。
では、ディールメーカーはどうやってAIをデューデリジェンスに活用しているのでしょうか?M&Aでは報告書や資料を素早くアップロードして分析できるAIツールを活用することで、膨大なデータセットの選別や繰り返し作業の管理に必要な時間を削減し、戦略的な意思決定により集中できるようになります。
また、売上予測の管理、情報請求への対応、日常の問い合わせへの対応といった社内プロセスが改善されることで全体的な効率も向上します。
AIとテクノロジーは、M&Aのライフサイクルを合理化し、投資家に価値を生み出す上でより広範な役割も果たしています。高度な分析機能を利用してターゲット候補の財務状況や戦略的ポジショニングを把握しようとする企業は増えてきています。AIはアクティブターゲットリストの管理にも活用でき、投資機会の基準を継続的に更新し、投資テーマを絞り込むことで成長戦略との整合性を高めることもできます。
しかしこのように有望であるにもかかわらずM&AへのAI導入には大きな障壁があり、それは主にヘルスケア分野の厳しい規制によるものです。データのセキュリティ、信頼性、変更管理に関する懸念が完全統合を遅らせているのです。
実際、ディールメーカーの36%がAIツールを使用する際の主な懸念事項として、データのセキュリティとプライバシーを挙げていることがDatasiteの調査で 分かっています。さらに、73%がM&AにおけるAIはもっと規制されるべきだと感じているとのことです。またM&AのAIに立ちはだかる大きな課題として、セキュリティ上の懸念を主因として、外部のAIツールへのデータ公開をためらう組織もあることが挙げられます。例えば多くの売り手は、買い手やその他サードパーティの関係者がデータルーム内の機密データにAIツールを使用することに消極的です。さらにライフサイエンス業界はデータにまつわる複雑さや厳しいコンプライアンス要件があることで知られています。そのため企業は、重要で機密性の高いプロセスにAIを使用することに依然慎重であり、効率性と、信頼および説明責任の必要性とのバランスをとっているのです。
つまり、AIやテクノロジーは効率を高めることができますが、関係構築と取引成立には人間同士のやりとりが尚も不可欠なのです。多くの専門家は、技術的なツールと人間の専門知識を組み合わせたミックス型のアプローチがより良い結果につながるだろうと考えています。この業界が進化するにつれ、成功の可否は順応性、戦略的焦点、革新と従来のベストプラクティスのバランスをとる能力にかかっています。そして、テクノロジー、専門知識、戦略的先見性を適切に組み合わせることで、M&Aは当分野の変革と成長に向けた強力な手段であり続けられるのです。
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