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ハイ・イールド債:復活の兆し?
2024年05月07日 | ブログ
ハイ・イールド債:復活の兆し?
Datasite セールス担当副社長 バブール・ミルザ
市場に楽観論が拡大しつづけるにつれ、デット・ファイナンスの調達ツールとしてハイ・イールド債をめぐる見通しも改善しているようです。中央銀行が金利を引き下げれば、債券は事業資金や買収資金を調達するための魅力的なルートとなり、リターンの最大化を望む投資家にとって魅力的な手段となるでしょう。
White & Case LLPのキャピタル・マーケット・パートナーであるジェームス・グリーン氏は次のように述べています。「2023年のハイ・イールド債市場の低迷の後、2024年の年明けにいくつかの発行体が市場の再開を有利に活用し、これをきっかけに取り引きに勢いがついて、いくつかの債券が当初ガイダンスの上限を下回る価格設定となり、ハイ・イールド債への旺盛な投資意欲が示されました」。
つまり経済情勢が変化する今こそ、ハイ・イールド債の復活の時かどうかを探る価値があるでしょう。
ハイ・イールド債を理解する
ハイ・イールド債は、しばしば「ジャンク債」と呼ばれ、投資適格以下の信用格付けを持つ企業が発行する債券として、通常は信用格付け機関から「BB」以下の格付けを受けています。こうした債券は、投資適格債に比べてデフォルトの可能性が高いため、よりリスクの高い投資とみなされます。
企業がハイ・イールド債を発行する理由は多岐にわたります。主な動機のひとつは資本構成の多様化で、特に銀行借入や民間のクレジット・ファイナンスよりも柔軟性の高いコベナンツ・ライト商品として注目されています。ハイ・イールド債は、こうした企業にとって、事業拡大や買収のための資金調達、あるいは債務の借り換えや返済のために、コストは高いものの、より柔軟な条件で資金を調達できる手段となっています。
投資家がハイ・イールド債に惹かれるのは、主に高いリターンが期待できることと、発行額の大半を占める固定金利債のコール・プロテクションがあるからです。利回りが低い伝統的な債権市場の金利環境では、ハイ・イールド債の高い利回りが魅力になります。さらにハイ・イールド債は、株式や投資適格債など他の資産クラスと密接に相関しない収益源を提供することにより投資ポートフォリオの多様化にも寄与しています。
課題と機会
ハイ・イールド債市場は、近年、浮き沈みが激しいのが特徴です。ブレグジットをめぐる不確実性、COVID-19パンデミックによる経済的な打撃、世界的なインフレ、さらなる地政学的リスクなどが多くの難題を生み出しています。
しかし英国のインフレ率は、2022年10月の最高値11.1%から3.4%(2024年2月)まで大幅に低下しており、2024年下半期には2%を下回る見込みです。イングランド銀行は、2025年に金利を3%(現在は5.25%)まで引き下げるものと予想されていますが、これに先立ち中間的な金利引き下げを行う可能性もあります。インフレ率が低下し、金利が下がれば債券の価値は高まります。
発行体にとって最大の課題は、ハイ・イールド債の発行に伴う高いコストの管理です。企業は、利払いや最終的な借入元本返済に十分なキャッシュフローを生み出す能力があることを投資家に納得させなければなりません。
さらに経済の不確実性と市場の変動により、企業が債券の需要を正確に評価し、最終的な価格設定を予想することが難しくなる可能性もあります。最終的な価格設定は市場に依存し、債券発行時にのみ決定されるため、債券発行の準備段階が始まってから数ヵ月後になることも考えられます。また企業の財務上のストレスや債務不履行のリスクが高まれば、ハイ・イールド債が、よりリスクの高い賭けとなる可能性もあります。Fitchによると、欧州ハイ・イールド債のデフォルト率は2024年2月末時点で1.6%に低下していますが、2024年末までには4%に上昇すると予想されています。
とはいえ、ハイ・イールド債の発行額は2024年第1四半期に 1,560億ドルと、23年度の 3,480億ドルに比べて大きく増加しており(Mergermarketによるデータ)、今年の発行額が昨年を上回る可能性があることを示唆しています。多くの市場関係者は、金利が下がり続けて投資家心理が高まり続ければ、ハイ・イールド債と、資金を必要とする発行体や今年のリターンを最大化したいと願う投資家がウィン・ウィンの関係になるのではないかと考えています。
「ハイ・イールド債市場は、すべての市場参加者にとって2021年以降で最も好調です。過去最高の新規発行額、全体的な資金調達コストの低下、リファイナンス案件と初回発行案件が混在する供給量の増加が見られます。」と、Millbankのパートナーであるアポストロス・グクチニス氏は述べています。「いくつかの統計によると、4月は2021年11月以来初めて10件以上の取引があり、ハイ・イールドとしては最も忙しい月となりました。数カ月以上先のパイプラインの見通しは立っていませんが、近い将来に市場が開かれなくなるような確かな材料も見られません。」
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